2026年6月27日

大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
犬猫の一次診療とともに、獣医療の可能性を広げるため、現在は馬の臨床研究にも携わっています。
猫が観葉植物やベランダの草に興味を示したり、
市販の「猫草」を夢中でかじったりする姿を見て、
「どうして肉食の猫が草を食べるの?」
と不思議に思ったことはありませんか。
猫草は毛玉対策のために食べるもの、
というイメージが広く知られていますが、
近年は「味」そのものが猫を引きつけている可能性にも
注目が集まっています。
猫草とはどんな草?
猫草とは、特定の植物名ではなく、
猫が食べてもよいとされる草の総称です。
市販品では、エンバク、大麦、小麦などの
イネ科植物の若葉がよく使われます。
やわらかく、細長い葉をしているため、
猫がかじりやすいのが特徴です。
ただし、猫草は栄養面で必ず必要なものではありません。
猫は本来、肉食動物であり、
総合栄養食のキャットフードを適量食べていれば、
基本的な栄養は満たせます。
猫草は「ないと困る主食」ではなく、
体質に合う猫にとっての補助的な
楽しみやケアの一つと考えるとよいでしょう。
なぜ猫は猫草を食べるの?
猫が草を食べる理由については、
昔からいくつかの説があります。
✔毛づくろいで飲み込んだ毛を吐き出しやすくするため、
✔食物繊維でお腹を刺激するため、
✔気分転換や遊びの一環としてかじるため
などです。
実際、猫草を食べたあとに毛玉や草を吐く猫もいますが、
すべての猫が吐くわけではありません。
つまり、猫草の目的は一つに決められるものではなく、
猫によって反応が違います。
よく食べる子もいれば、まったく興味を示さない子もいます。
食べないからといって不健康というわけではないため、
無理に与える必要はありません。
研究で分かってきた「猫草のおいしさ」
日本獣医生命科学大学などの研究では、
猫草として利用されるイネ科植物の
味覚的な特徴が調べられました。
研究では、
猫が口にする可能性のある植物を味覚センサーで分析し、
酸味、苦味、旨味、塩味などの傾向を比較しています。
その結果、
イネ科植物には「苦味が少なく、旨味が比較的強い」
という特徴があることが示されました。
猫は甘味を感じにくい一方で、旨味には反応すると考えられています。
また、猫は苦味に敏感な動物です。
そのため、苦味が少なく旨味を感じやすい草は、
猫にとって受け入れやすい可能性があります。
興味深いのは、エノコログサなど一部のイネ科植物では、
果物よりも旨味が強い傾向が見られた点です。
私たち人間には
「草がおいしい」という感覚は分かりにくいかもしれませんが、
猫にとっては味の面でも魅力があるのかもしれません。
マタタビやキャットニップとは違う?
猫が反応する植物といえば、
マタタビやキャットニップを思い浮かべる方も多いでしょう。
これらは主に香りによって猫の行動を引き出す植物です。
一方、猫草は香りで興奮させるというより、
かじる、噛む、食べるという行動そのものに関わります。
つまり、同じ「猫が好む植物」でも、
猫にとっての意味は異なると考えられます。
安全に与えるためのポイント
猫草を与えるときは、
市販の猫用として管理されたものを選びましょう。
屋外の草は、農薬、除草剤、排気ガス、寄生虫
などが付着している可能性があるため避けてください。
また、伸びすぎて硬くなった葉は胃腸を刺激しやすいため、
やわらかい若葉のうちに少量ずつ与えるのが安心です。
食べた後に
何度も吐く、下痢をする、元気がない、食欲が落ちる
といった変化があれば、猫草は中止して動物病院に相談しましょう。
特にユリやソテツなど、
猫にとって強い毒性を持つ植物は非常に危険です。
猫草を用意していても、
観葉植物や花束を猫がかじらないよう
生活環境を見直すことが大切です。
猫草は「必要」よりも「合うかどうか」で考えよう
猫草は、すべての猫に必須のものではありません。
しかし、苦味が少なく旨味を感じやすいイネ科植物は、
猫にとって食べやすく、楽しみの一つになる可能性があります。
大切なのは、愛猫の反応をよく観察し、
少量から安全に試すことです。
喜んで食べるなら上手に取り入れ、
体に合わない様子があれば無理に続けない。
猫草とは、猫の健康を守るための万能アイテムではなく、
愛猫の暮らしを少し豊かにする選択肢の一つなのです。
