2026年6月12日

大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
犬猫の一次診療とともに、獣医療の可能性を広げるため、現在は馬の臨床研究にも携わっています。
「ちゃんと量は守っているのに、いつも少し残る」
「最初は勢いよく食べるのに、途中でぷいっとやめてしまう」
ネコと暮らしていると、そんな光景に
心当たりがある方は多いのではないでしょうか。
体調が悪いのか、それともわがままなのか……
飼い主としては、少し気になってしまいますよね。
これまで、ネコがごはんを完食しない理由は、
「野生の名残」「少食な動物だから」「ただの気分屋」
といった言葉で説明されることがほとんどでした。
でも実は、そこには
ネコならではの“鋭い鼻”が関係している可能性があることが、
最近の研究で分かってきました。
ポイントは「お腹」よりも「匂い」
岩手大学の研究グループが注目したのは、ネコの嗅覚です。
実験では、同じ餌を続けて与えると、
ネコの食べる量は少しずつ減っていきました。
ところが、途中で別の餌を出すと、また食欲が戻ったのです。
さらに驚くのは、餌そのものを変えなくても、
匂いだけを変えれば食欲が回復したという点です。
逆に、食事の合間にも同じ匂いを嗅がせ続けると、
その後の食べる量は減ってしまいました。
つまりネコは、「お腹がいっぱいだからやめる」のではなく、
同じ匂いに慣れてしまって、食欲が一時的に落ちている
可能性があるのです。
ネコは「匂いに敏感なグルメ」
この現象は「嗅覚順応」と呼ばれています。
同じ匂いを嗅ぎ続けると刺激が弱く感じられ、
新しい匂いが現れると、再び興味が湧く
──そんな仕組みです。
ネコが1日に何度も少しずつ食べる「少量頻回摂食」の背景には、
満腹感だけでなく、こうした嗅覚による調節が
深く関わっていると考えられています。
ネコは、私たちが思っている以上に
“匂いで食事を楽しんでいる”動物なのかもしれません。
今日からできる、飼い主さんへのヒント
この研究結果は、日々のごはんの悩みに、ちょっとしたヒントを与えてくれます。
たとえば、
・同じフードをずっと出しっぱなしにしない
食べ残しが気になるときは、
時間を決めて一度片付けてみるのもひとつの方法です。
・香りに変化をつけてみる
フードを人肌程度に温めたり、
トッピングをほんの少し変えたりするだけでも、
匂いの印象は変わります。
・無理に食べさせようとしない
「残す=悪いこと」と思いすぎず、
ネコのペースを尊重してあげることも大切です。
もちろん、急に食欲が落ちた場合や元気がないときは、
獣医師に相談することが前提です。
その上で、「匂い」に目を向けてみると、
これまでとは違う見方ができるかもしれません。
「残す」のは、ネコなりのサインかも
ネコがごはんを残すのは、気まぐれでも、わがままでもなく、
本能に根ざした自然な行動
である可能性があります。
「今日も少し残したな」
そんなときは、
「この子、匂いにちょっと飽きたのかな」と、
少し肩の力を抜いて見守ってみる。
それも、ネコとの暮らしを楽しむひとつのコツなのかもしれません。
