2026年2月16日

最終更新:2026年2月 (2021年記事を再編)
この記事は2021年に執筆したものですが、2026年現在の最新データと社会情勢に合わせて、
全面的に加筆・修正したものです。
大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
動物保護施設から新しい家族を迎える「譲渡」の輪は、日本でも着実に広がっています。
アメリカの例を見ると、年間約320万頭もの動物が施設から譲渡され、その数は増加傾向にあります。
しかし、その一方で避けて通れない現実が、
一度は家族に迎えられた動物が施設に戻される「返却」の問題です。
今回は、あまり語られることのない「返却」の実態と、
それを防ぐために必要な支援について、お話しします。
「返却」は必ずしも「失敗」ではない
一般的に、譲渡後の返却は「無責任な失敗」と捉えられがちです。
もちろん、環境の変化は動物と飼い主の双方に大きなストレスを与えます。
しかし、現場を知る立場から言えば、
返却は「ミスマッチによるストレスの長期化を防ぐための、苦渋の決断」
という側面もあります。
飼い主が動物の特性を深く理解し、次のステップへ進むための学びとするならば、
それは決して単なる「失敗」ではなく、
双方が再スタートを切るためのプロセスとも言えるのです。
返却される理由と「犬のサイズ」の相関
サウスカロライナ州の調査データによると、
譲渡された犬の約1割が6カ月以内に施設に戻されており、
その理由は年齢やサイズによって明確な傾向があります。
・若い成犬: 「破壊行動」や「多動性」といった行動上の問題。
・仔犬: 破壊行動よりも、住宅事情(家主とのトラブル)などの環境要因。
・サイズによる違い: 中型・大型犬は、小型犬に比べて返却率が高い傾向にあります。
このデータから、
「犬のサイズ」と「行動管理の難易度」が、
家族との良好な関係を築く上での大きなハードルになっていることが分かります。
獣医師が実感する「譲渡後支援」の空白
当院では保護団体の支援を行っているため、
譲渡後の生活についてご相談を受ける機会が多々あります。
ここで感じる大きな課題は、
「行動の悩み」が深刻化していても、ドッグトレーナーや行動学の専門家の支援を受けている飼い主様が驚くほど少ないという点です。
「返却」という選択肢が頭をよぎる前に、
適切なカウンセリングや訓練プログラムが介入できていれば、
救えた縁はもっとあったはずだと痛感しています。
これから里親になる方、そして周囲の方へ
保護動物を迎えようとしている方からアドバイスを求められた際、
私はあえてこの「返却の現実」を率直にお伝えするようにしています。
「動物の行動を理解すること」は、愛情と同じくらい重要です。
これから求められるのは、単に譲渡頭数を増やすことではなく、
以下のサイクルを回すことだと考えます。
1.各団体による透明性の高い情報開示(リスクも含めた事前共有)
2.里親に対する専門的な事前カウンセリング
3.譲渡後、すぐに専門家(獣医師や訓練士)に相談できる支援体制
最後に
新しい家族を迎えることは、素晴らしい冒険です。
しかし、もし壁にぶつかった時は、一人で抱え込まずに専門家を頼ってください。
私たち動物病院も、
医療の面だけでなく、譲渡後の生活を支えるパートナーとして
皆さまをサポートしていきたいと考えています。
