2026年9月24日

大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
犬・猫の一次診療で培ってきた総合的な視点を基盤に、
現在は馬の健康管理・ウェルネスケアの分野にも活動を広げています。
小動物から馬までを視野に入れる“総合獣医師”として、
人と馬のより良い関係づくりにつながる獣医療とケアの可能性を探究しています。
Anges Horse Wellness Care Service
Healing Through Horses ~馬を通して、人が自分らしく羽ばたく~
「お留守番をさせると、ずっと吠えている」
「帰宅すると部屋の中が荒らされている」
「留守番中だけトイレを失敗してしまう」
このようなお悩みの背景に、
“分離不安”が隠れていることがあります。
分離不安や恐怖症など、恐怖・不安に関連する問題行動は、
単なる「性格」や「しつけ」の問題ではありません。
強い不安が続くことで、動物自身の生活の質(QOL)が低下し、
場合によっては自傷行為や身体的な症状につながることもあります。
また、吠え続ける、物を壊すといった行動は、
飼い主さんにとっても大きな負担になります。
今回は、犬の分離不安を中心に、
どのように考え、どのように対応していくのかをご紹介します。
分離不安とは?
分離不安の大きな特徴は、
飼い主さんなど愛着を持つ対象がいなくなったときに、
強い不安症状が現れることです。
特に飼い主さんの外出後30分以内に症状が現れることが多く、
・過剰に吠える、遠吠えをする
・家具や扉などを壊す
・普段はできているのに排泄を失敗する
・嘔吐や下痢をする
・震える
・体を執拗になめ続ける
など、行動面だけでなく
身体症状として現れることもあります。
また、在宅中にも飼い主さんの後を常について歩くなど、
強い後追い行動がみられる犬もいます。
分離不安にもいくつかのタイプがあります
分離不安の分類はまだ完全に確立しているわけではありませんが、
文献ではいくつかのタイプが提唱されています。
① 飼い主さんへの愛着が非常に強いタイプ
外出の準備を察知しただけで不安になり、
帰宅時には激しく喜ぶなどの行動がみられます。
② 環境の変化をきっかけに発症するタイプ
引っ越しや生活環境の変化などをきっかけとして、
二次的に飼い主さんへの依存が強くなるケースです。
③ 留守番中の「怖い経験」がきっかけになるタイプ
飼い主さんが不在のときに雷や大きな音などの恐怖体験をし、
それ以降、留守番そのものを怖がるようになるケースです。
このタイプでは、単純な分離不安だけでなく、
「恐怖症」が関係している可能性も考える必要があります。
どんなことが関係しているのでしょうか?
発症には、
・飼い主さんがいない状況への馴化不足
・引っ越し、入院、留守番の増加など生活環境の変化
・外出時、帰宅時の過度なやり取り
・加齢による不安傾向の増加
などが関係すると考えられています。
特に高齢犬では、若い頃には問題なく留守番できていた犬でも、
不安が強くなることがあります。
「留守番中に吠える=分離不安」とは限りません
吠える、排泄を失敗する、嘔吐・下痢をする、
といった症状は、他の身体疾患や行動学的な問題でも起こります。
そのため、まず身体的な問題がないかを確認し、
そのうえで「いつ、どんな状況で行動が起こるのか」を
分析することが重要です。
特に役立つのが、留守番中の動画撮影です。
飼い主さんが外出したあと、
「何分後から落ち着かなくなるのか」
「どのような行動をするのか」
「外からの音などに反応していないか」
を確認することで、診断の大きな手掛かりになります。
治療の中心は「行動療法」です
分離不安の治療では、行動療法を中心に
生活環境を整えていきます。
① まず安全を確保する
強い不安からパニックになり、
扉や窓に体当たりしたり、
物を噛んだりしてケガをすることがあります。
壊れやすい物を片付ける、窓へのアクセスを制限するなど、
安全な環境を整えましょう。
② 強い不安を経験する状況を減らす
強い不安状態を何度も繰り返すと、症状が悪化することがあります。
可能であれば、
・一緒に外出する
・ペットシッターやペットホテルを利用する
・家族や知人に預かってもらう
など、長時間ひとりになる状況を減らす工夫も大切です。
もちろん、まったく留守番をさせないのは現実的ではありません。
各家庭で無理なく続けられる方法を考えていきます。
③ 叱らないこと
帰宅後に物が壊れていたり、排泄を失敗していても、
叱ることは逆効果です。
犬は過去の行動を叱られているとは理解できず、
「飼い主さんが帰ってくること=怖いこと」
と学習してしまう可能性があります。
外出時や帰宅時も、過度な声がけや挨拶を避け、
落ち着いて接することが大切です。
④ 日頃からストレスを減らす
普段の生活を充実させることも重要です。
・散歩や運動
・ボール遊びや引っ張り遊び
・簡単なトレーニング
・ノーズワーク
・知育トイやパズルフィーダー
などを取り入れることで、心身への適度な刺激になります。
飼い主さんとの関係を安定させることも大切です
これは、愛情を減らすという意味ではありません。
犬が「次に何が起こるのか予測できる、安心した生活」を
送れるようにすることが大切です。
褒める、報酬を与えるといったトレーニングを取り入れ、
飼い主さんとの関わり方に一貫性を持たせることで、
不安の軽減につながることがあります。
お薬を使った方がよい場合もあります
分離不安では行動療法が基本ですが、
恐怖や不安が非常に強い場合には、
薬物療法を併用することがあります。
不安が強すぎると、新しいことを学ぶこと自体が難しくなります。
適切なお薬で不安を軽減することで、
行動療法に取り組みやすくなることが期待できます。
「しつけが悪い」と考えず、まず相談してください
分離不安をはじめとした問題行動の背景には、
犬自身が感じている不安や恐怖があります。
「最近、留守番が苦手になった」
「吠え方が以前よりひどくなった」
「留守中の様子がおかしい」
と感じたら、まず留守番中の様子を動画に撮ってみてください。
その動画が、原因を考える大切な手掛かりになります。
気になる行動がありましたら、診察の際にお気軽にご相談ください。

執筆者:朝岡紀行(獣医師)
・アンジェス動物病院 院長
・Anges Horse Wellness Care Service 主宰
犬・猫のホームドクターとしての一次診療に加え、
現在は馬の健康管理・ウェルネスケアにも取り組んでいます。
乗馬クラブや牧場における健康管理、飼養管理やケア体制への助言、馬の臨床獣医師との連携など、
現場の課題に寄り添いながら、新しいウェルネスケアの形を育んでいます。
私が目指しているのは、
「犬猫の一次診療動物病院院長 × 馬も診る総合獣医師」として、
犬・猫に加え、馬の健康を支えることを通じて、
人と動物がより健やかに共生できる社会づくりに貢献することです。
犬や猫、馬に関わる皆さまと知見を共有し、
新しい価値を共に創っていけることを楽しみにしています。
Anges Horse Wellness Care Service は、
「Healing Through Horses ~馬を通して、人が自分らしく羽ばたく~」
をコンセプトに、人と馬のウェルネスを育むことを目指す取り組みです。
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