2026年3月21日

最終更新 : 2026年3月 (2021年記事を再編)
この記事は2021年に執筆したものですが、2026年現在の最新データと社会情勢に合わせて、
全面的に加筆・修正したものです。
大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
かつての自粛生活は、私たちとペットの距離を劇的に縮めました。
「常に一緒にいられる幸せ」は、絆を深める大きなチャンスとなった一方で、
ペットの身体と心には、
思いがけない「現代病」の火種を植え付けてしまった側面もあります。
再び訪れる「日常」を健やかに過ごすために、
今こそ見直すべき時間管理と健康管理のポイントをお伝えします。
自粛生活がペットに与えた「功」と「罪」
テレワークが普及し、多くの飼い主様が自宅で過ごす時間が増えたことは、
ペットにとって最大の環境変化でした。
それまでは日中の大半を一頭で静かに過ごしていた時間が、
突如として「大好きな家族が常にいる時間」へと変わったのです。
この変化には、ポジティブな側面が多くありました。
外出が制限される中で、唯一の息抜きとして愛犬との散歩を重視したご家庭では、
結果として犬の運動量が増え、身体が引き締まり、体力も向上しました。
また、常に目が届くからこそ、小さな体調の変化にすぐ気づき、
早期に動物病院を受診できるというメリットもありました。
しかし、その一方で深刻な「罪」の側面も浮き彫りになりました。
それは、わがままの助長や、過度な甘やかしによる健康被害です。
「甘やかし」の代償:肥満と消化器症状の増加
普段から散歩の習慣が少なかったご家庭では、
在宅時間の増加がそのまま「おやつの増加」に繋がってしまいました。
「いつもはいない家族が家にいて、目が合うたびにご褒美をくれる」
ペットにとっては天国のような状況ですが、身体にとっては大きな負担です。
家族全員が競うようにおやつを与えてしまった結果、
記録的な体重増加(肥満)を招くケースが続出しました。
また、食べ慣れないものの与えすぎにより、
下痢や嘔吐などの消化器症状で来院されるケースも非常に多く見受けられました。
「喜ぶ顔が見たい」という飼い主様の純粋な愛情が、
結果としてペットの内臓や関節を痛めてしまう。
このパラドックス(矛盾)に、私たちは気づかなければなりません。
肥満が招く「負のスパイラル」を止める
診察室で「最近この子、動くのが嫌いになったみたいなんです」という声をよく耳にします。
しかし、それは「性格が変わった」のではなく、
太ったことで「動くのが辛くなった」だけかもしれません。
体重が増えれば、少ない筋肉で重い脂肪を支えなければならず、
心肺機能にも過度な負荷がかかります。
【肥満の負のスパイラル】
1.摂取カロリー過多 + 運動不足
2.筋肉量が減少し、基礎代謝が低下する
3.心肺機能が低下し、動くのが億劫になる
4.さらに動かなくなり、筋肉が減り、脂肪だけが増える
恐ろしいことに、「一度落ちた運動機能を回復させるには、
機能低下にかかった時間の2〜3倍の月日を要する」と言われています。
つまり、数ヶ月の自粛生活でついた脂肪と筋肉の衰えを戻すには、
1年近い努力が必要になるのです。
散歩を「億劫な義務」にせず、
愛犬と自分自身の健康を守るための「必須の習慣」として、
意識的に頻度を増やしていきましょう。
「分離不安」の再発に備える時間管理
在宅ワーク中、
ペットの「分離不安(飼い主様と離れることで過度な不安を感じる状態)」の相談は
一時的に減少しました。
常に誰かがそばにいたからです。
しかし、社会状況が戻り、再び留守番を余儀なくされる時期が来たとき、
そのショックは以前よりも遥かに大きくなります。
「ずっと一緒だと思っていたのに、なぜ急にいなくなるの?」
この戸惑いが、
激しい夜鳴き、不適切な場所での排泄、自傷行為、破壊行動などを引き起こすリスクを高めます。
だからこそ、在宅ワーク中であっても、
意識的に「一人でいる時間」を確保すべきです。
・別々の部屋で過ごす: 15〜30分程度でも良いので、お互いの姿が見えない環境を作ります。
・ケージ(ハウス)を活用する: 飼い主様が在宅していても、あえてケージの中で落ち着いて過ごす練習をさせましょう。
・知育トイを与える: 一人で何かに集中して遊ぶ時間を習慣化させます。
最後に
ステイホーム生活で深まった絆は、素晴らしい宝物です。
しかし、その絆が「依存」に変わってしまうと、
生活環境が変化した際に、ペットも飼い主様も苦しむことになります。
「一緒に楽しく過ごす時間」と「一人で自立して過ごす時間」のメリハリをつけること。
そして、おやつではなく「散歩や遊び」で愛情を表現すること。
この2点を意識するだけで、ペットのこれからの10年の健康状態は劇的に変わります。
今一度、愛犬・愛猫との距離感と生活リズムを見直してみませんか?
それは、今後どのような環境の変化が訪れても、愛するペットが動揺することなく、
心身ともに健やかに過ごし続けるための大切な準備なのです。
