2026年9月10日

大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
犬・猫の一次診療で培ってきた総合的な視点を基盤に、
現在は馬の健康管理・ウェルネスケアの分野にも活動を広げています。
小動物から馬までを視野に入れる“総合獣医師”として、
人と馬のより良い関係づくりにつながる獣医療とケアの可能性を探究しています。
Anges Horse Wellness Care Service
Healing Through Horses ~馬を通して、人が自分らしく羽ばたく~
暑い日に走ったあと、私たちは大量の汗をかきます。
体が熱くなれば汗が出る――そんな反応は当たり前のように思えますが、
実は動物の世界では少数派です。
全身からしっかり汗をかいて体温を下げる代表的な動物は、
ヒトとウマ。
では、なぜ汗は体を冷やすのでしょうか?
そして、汗をあまりかけない動物たちは、
どのように暑さを乗り切っているのでしょうか。
運動すると体の中で何が起きるのか
運動時、筋肉は収縮するために多くのエネルギーを必要とします。
筋細胞の中でつくられた化学エネルギーは
機械エネルギーへと変換され、
体を動かす力になります。
しかし、速筋線維で
実際に運動のために使われるエネルギーは約30%といわれ、
残りの約70%は熱として発生します。
もしこの熱が体の中にたまり続ければ、
体温は危険なほど上昇してしまいます。
そこで動物の体には、熱を逃がすための調節機能が備わっています。
体温調節の司令塔となるのは、脳の視床下部にある体温調節中枢です。
ここからの指令によって、筋肉で生じた熱は
血液循環を通じて体内の低温部分へ運ばれ、
さらに体外へ放出されます。
つまり、運動能力を支えているのは、
筋肉だけでなく「熱を逃がす力」でもあるのです。
体を冷やすカギは「水分の蒸発」
運動時の熱放散で大きな役割を担うのが、
水分の蒸発、つまり“蒸散”です。
水分が体の表面や呼吸器の粘膜から蒸発するとき、
周囲の熱を奪うため、体温を下げる効果があります。
蒸散には大きく分けて、
呼吸によるものと発汗によるものがあります。
ただし、発汗による体温調節が得意な動物は多くありません。
ウマとヒト以外の多くの哺乳類や鳥類では、
汗腺があまり発達していないため、
呼吸を使った体温調節が重要になります。
たとえばイヌは、暑いときや運動後に
「パンティング」と呼ばれる浅く速い呼吸をします。
これによって鼻腔や口腔からの水分蒸発を増やし、
体の熱を逃がしているのです。
気温が上がると唾液や鼻腔粘液の分泌も増え、
蒸散をさらに助けます。
ウマは全身で汗をかくアスリート
ウマは全身に汗腺をもち、発汗によって効率よく体温を調節します。
体表に出た汗が蒸発するときに熱を奪い、体を冷却するのです。
大きな体で力強く走るウマにとって、
発生した熱を素早く逃がすことは、運動を続けるうえで非常に重要です。
一方で、呼吸による熱放散も無視できません。
運動時には、発生した熱の一部を呼吸によっても逃がしており、
発汗と呼吸の両方を使って体温を守っています。
白い泡の正体は、ウマの汗に含まれる成分
運動後のウマの体に、
“石けんを泡立てたような白い汗”が見られることがあります。
その正体は、汗に含まれる「ラセリン」と呼ばれる糖タンパクです。
ラセリンには石けんに似た働きがあり、脂肪と水分をなじみやすくします。
そのため、汗が被毛を伝って広がりやすくなり、
皮膚全体から効率よく熱を逃がす助けになります。
白く泡立つ汗は、単なる汚れや異常ではなく、
ウマが体を冷やすために働かせている巧みなしくみの表れなのです。
私たちにとって身近な「汗」は、
実は動物の進化や体のつくりを考えるうえで、とても興味深いテーマです。
ヒトとウマは、汗を使って体を冷やす能力に優れた数少ない動物です。
一方で、イヌのように呼吸を使って熱を逃がす動物もいます。
体温を守る方法は動物によって異なりますが、
どれも命を支える大切なしくみです。
次に動物が暑さの中で呼吸を速めたり、
走ったウマが白い汗を浮かべたりしている姿を見たら、
その背後にある精巧な体温調節の働きに目を向けてみてください。

執筆者:朝岡紀行(獣医師)
・アンジェス動物病院 院長
・Anges Horse Wellness Care Service 主宰
犬・猫のホームドクターとしての一次診療に加え、
現在は馬の健康管理・ウェルネスケアにも取り組んでいます。
乗馬クラブや牧場における健康管理、飼養管理やケア体制への助言、馬の臨床獣医師との連携など、
現場の課題に寄り添いながら、新しいウェルネスケアの形を育んでいます。
私が目指しているのは、
「犬猫の一次診療動物病院院長 × 馬も診る総合獣医師」として、
犬・猫に加え、馬の健康を支えることを通じて、
人と動物がより健やかに共生できる社会づくりに貢献することです。
犬や猫、馬に関わる皆さまと知見を共有し、
新しい価値を共に創っていけることを楽しみにしています。
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をコンセプトに、人と馬のウェルネスを育むことを目指す取り組みです。
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