2026年5月21日

大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
犬猫の一次診療とともに、獣医療の可能性を広げるため、現在は馬の臨床研究にも携わっています。
~Anges Horse Wellness Care Service~
ペットの医療費は、日常的に一定額が発生する支出というよりも、
「発生頻度は低いが、発生した場合の金額が大きくなりやすい」
という特徴を持つ費用です。
犬・猫の飼い主さんを対象に実施された調査結果は、
この構造を客観的なデータとして明確に示しています。
年間医療費は低水準でも、安心材料とは言い切れない
2025年の年間医療費については、
「2万円未満」が44.9%と約半数を占めました。
特に猫では58.6%が2万円未満であり、日常的には
医療費負担を大きく感じにくい状況がうかがえます。
一方で犬では「6万円以上」が27.6%を占めており、
動物種別による差も確認されています。
この結果だけを見ると、
「ペットの医療費はそれほど高額ではない」
と受け取られがちです。
しかし、同調査が示す別の指標に目を向けると、
その認識は大きく修正されます。
一回あたりの診療費が示す“最大リスク”
一回の診療費の最高額については、
「5万円未満」が66.2%で最多となった一方、
「10万円以上」を経験した飼育者は18.5%にのぼります。
さらに、最高額として300万円という回答も確認されています。
この結果は、「平均的な医療費水準と、
突発的に発生する最大支出との間に大きな乖離がある」
ことを示しています。
ペット医療費のリスクは、日常的な積み重ねよりも、
単発の高額支出として顕在化しやすい点に特徴があます。
経済的要因が受診行動に与える影響
こうした費用構造は、飼育者の行動にも影響を及ぼしています。
費用面を理由に、動物病院への受診を迷った、
あるいは様子を見る判断をした経験が「ある」
と回答した飼い主さんは34.5%に達していたそうです。
約3人に1人が、経済的な要因によって
受診判断に躊躇を生じさせていることになります。
医療の必要性を感じながらも、費用が判断を左右する状況は、
ペット医療費が家計にとって
無視できないリスクであることを示唆しています。
医療費に対する意識と、備えの実態
では、飼い主さんたちは医療費について
どのような考え方を持っているのでしょうか。
最も多かった回答は
「家計に支障のない範囲で最大限の治療をしたい」で、
52.7%を占めました。
年齢が若いペットほど
「金額に関わらず最善の治療を受けさせたい」
という意識は強いものの、
全体としては家計とのバランスを重視する姿勢が
主流となっています。
しかし、その一方で、
将来の医療費に備えた貯蓄を「していない」飼い主さんは63.7%にのぼり、
実際に貯蓄を行っている層は28.6%にとどまっています。
高額診療への不安は強く認識されているにもかかわらず、
具体的な資金準備が進んでいないという点に、
明確なギャップが存在しています。
ペットへの貯蓄は「判断の自由度」を確保する手段
ペットへの貯蓄は、
「必ず医療費として使うお金を用意すること」を
意味するものではありません。
むしろ、「突発的な高額診療が必要になった際、
費用のみを理由に選択肢を狭めないための準備」と
捉えることができる。
あらかじめ一定の備えがあることで、判断を急がず、
より冷静に選択肢を検討できる余地が生まれる。
その余地こそが、飼い主さんにとっての安心感につながります。
データが示すのは「例外ではない」という事実
調査結果が示しているのは、
「多くの飼い主さんが同様の不安を抱えている」
という事実です。
そして同時に、
その不安は決して一部の人だけのものではなく、
誰にとっても起こり得る現実であることを示しています。
高額な備えを一度に用意するのは難しいです。
重要なのは、
ペット医療費のリスク構造を正しく理解し、
「もしも」に備えるという視点を持つことです。
データに基づいた小さな準備の積み重ねが、
将来の判断をより納得感のあるものに
してくれるはずです。
