2026年10月19日

大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
犬・猫の一次診療で培ってきた総合的な視点を基盤に、
現在は馬の健康管理・ウェルネスケアの分野にも活動を広げています。
小動物から馬までを視野に入れる“総合獣医師”として、
人と馬のより良い関係づくりにつながる獣医療とケアの可能性を探究しています。
Anges Horse Wellness Care Service
Healing Through Horses ~馬を通して、人が自分らしく羽ばたく~
歩き方だけでは気づけない関節の痛みと、早期発見のために知っておきたいこと
「最近、散歩に行きたがらなくなった」
「以前は簡単に上がれたソファに、上がらなくなった」
「寝ている時間が増えた気がする」
年齢を重ねた犬や猫に、
こうした変化を感じることはありませんか。
私たちはつい「もう年だから仕方がない」と考えてしまいがちです。
しかし、その行動の変化には、
関節の慢性的な痛みが隠れているかもしれません。
今回は、犬や猫でよくみられる「変形性関節症」について、
見逃しやすいサインや診断、治療と
日常生活でできる工夫をご紹介します。
変形性関節症とは?
変形性関節症(OA:Osteoarthritis)は、
関節の軟骨が徐々に傷み、炎症や痛みを伴いながら、
関節全体に変化が生じていく慢性疾患です。
健康な関節では、軟骨がクッションの役割を果たし、
骨同士が滑らかに動くようになっています。
しかし、加齢や関節への過度な負担、過去のけが、
関節の形成異常などが影響して軟骨が傷むと、
関節の動きが悪くなったり、痛みが生じたりします。
変形性関節症は高齢の犬や猫に多くみられますが、
必ずしも高齢になってから発症するわけではありません。
若い頃の関節の病気やけがが、
後年の変形性関節症につながる場合もあります。
また、関節の痛みによって動く機会が減ると、
筋力が低下し、さらに動きにくくなる
という悪循環に陥ることがあります。
そのため、変形性関節症は単なる「足腰の老化」ではなく、
健康寿命や生活の質(QOL)に関わる病気
として考えることが大切です。
実は身近な犬と猫の関節トラブル
変形性関節症は、犬でも猫でも決して珍しい病気ではありません。
特に高齢の猫では、画像検査で
関節に変化が認められる例が多いことが報告されています。
ところが、関節に異常があっても、
必ずしも明らかな症状が現れるとは限りません。
また、犬や猫は痛みを言葉で伝えることができないため、
飼い主さんが気づかないまま過ごしている場合もあります。
ここで知っておいていただきたいのは、
「足を引きずっていないから、関節は痛くない」とは限らない
ということです。
犬と猫では、痛みのサインが違います
犬にみられる変化
犬の場合は、次のような行動が手がかりになります。
• 散歩に行きたがらない、歩く距離が短くなった
• 立ち上がるまでに時間がかかる
• 階段や段差を嫌がる
• 車やソファへの乗り降りをためらう
• 散歩の後に動きがぎこちなくなる
• 遊ぶ時間が減り、寝ていることが増えた
症状が進むと足を引きずることもありますが、
初期には目立った歩行異常がみられない場合もあります。
猫にみられる変化
猫の場合は、さらに気づきにくいことがあります。
犬のようにはっきりと足を引きずるよりも、
日常生活の行動が少しずつ変わっていくことが特徴です。
• 高い場所へジャンプしなくなった
• ジャンプする前にためらうようになった
• 階段の上り下りが減った
• 毛づくろいが減り、被毛が乱れてきた
• 爪とぎの回数が減った
• トイレの出入りを嫌がるようになった
• 触られるのを嫌がったり、怒りっぽくなったりする
例えば、これまでお気に入りだった窓辺に
上がらなくなった猫がいたとします。
単に好みが変わったのではなく、
ジャンプをすると関節が痛むため、避けている可能性もあるのです。
こうした小さな変化を、
普段から一緒に生活している飼い主さんが見つけることは、
診断の大切な手がかりになります。
変形性関節症はどのように診断するのでしょうか?
変形性関節症の診断では、一つの検査だけで判断するのではなく、
いくつかの情報を組み合わせて評価します。
まず重要になるのが、普段の生活の様子です。
いつ頃から動きが変わったのか、
どのような動作を嫌がるのか、
活動量はどの程度減ったのかなど、
飼い主さんから伺う情報はとても重要です。
動物病院では、
歩き方や姿勢、関節の動く範囲、筋肉の状態、痛みの有無
などを確認します。
必要に応じてX線検査(レントゲン検査)を行い、
関節の骨の変化を調べます。
ただし、X線検査で確認できる変化と、
実際の痛みの強さは必ずしも一致しません。
また、初期の段階では画像に明らかな異常が現れないこともあります。
そのため、画像検査の結果だけでなく、
日常生活での行動や身体検査の所見を総合して判断
することが大切です。
関節の変化を調べる新しい検査も
近年は、関節軟骨の状態を評価するための
バイオマーカーにも関心が集まっています。
その一つが “尿中CⅡNE” という検査です。
これは、関節軟骨を構成するⅡ型コラーゲンが
分解された際に生じる物質を、尿から測定するものです。
関節軟骨の変化を把握する補助的な情報として期待されていますが、
この数値だけで変形性関節症の有無や
痛みの程度を判断することはできません。
検査にはそれぞれ役割と限界があります。
大切なのは、検査結果に加えて、
実際の症状や身体の状態を総合的に評価することです。
変形性関節症と診断されたら?
変形性関節症によって傷んだ関節を、
完全に元の状態へ戻す治療法は、
現在のところ確立されていません。
しかし、適切な治療や生活環境の工夫によって、
痛みを軽減し、快適な生活を維持することは十分に期待できます。
治療では、次のような方法を組み合わせていきます。
① 適切な体重管理
体重が増えるほど、関節にかかる負担も大きくなります。
肥満がある場合は、適切な減量が関節の負担軽減につながります。
② 無理のない運動と筋力の維持
痛みがあるからといって、まったく動かさないことがよいとは限りません。
犬では短時間の散歩を継続するなど、
体調に合わせた適度な運動が大切です。
猫でも、無理のない範囲で自然に身体を動かせる環境を整えます。
③ 痛みを和らげる治療
痛みの程度や基礎疾患などを考慮しながら、
消炎鎮痛薬や抗NGF抗体製剤などの治療を検討します。
必要に応じて、リハビリテーションや
栄養面からのサポートを組み合わせることもあります。
④ 生活環境の見直し
日常生活で関節にかかる負担を減らすことも重要です。
例えば、
滑りやすい床にマットを敷く、
ソファへの昇降にステップを設置する、
猫のトイレを出入りしやすいものに変更するなど、
少しの工夫が生活のしやすさにつながります。
治療の目標は、単に検査数値や画像所見を改善することではありません。
その子が痛みをできるだけ感じずに、
自分らしい生活を送れるようにすることです。
おうちでできる関節の健康チェック
普段の生活で、次のような変化がないか確認してみましょう。
• 以前と比べて歩く速度が遅くなっていないか
• 立ち上がる動作がぎこちなくなっていないか
• 階段や段差を避けるようになっていないか
• 遊びや散歩の時間が減っていないか
• ジャンプする回数が減っていないか
• 毛づくろいや爪とぎなどの習慣が変わっていないか
• 身体を触られることを嫌がるようになっていないか
気になる行動があれば、スマートフォンで
動画を撮影しておくのもお勧めです。
動物病院では緊張して普段と違う動きをすることもあるため、
ご自宅での自然な様子を記録した動画は、
診察の際に役立つことがあります。
まとめ|「年齢のせい」と決めつけないことが大切です
犬や猫の変形性関節症は、とても身近な病気でありながら、
初期には気づかれにくいことがあります。
特に高齢の犬や猫では、
活動量の低下や行動の変化が「年齢のせい」と受け止められ、
関節の痛みが見過ごされてしまうことも少なくありません。
変形性関節症と早い段階で気づくことができれば、
痛みの管理や生活環境の改善など、
その子のためにできることが増えます。
以前のように散歩を楽しめること、
お気に入りの場所でくつろげること、
自分の足で自由に動けること。
そんな何気ない日常をできるだけ長く守るために、
まずは小さな変化に目を向けてみてください。
「最近、少し動きが変わったかな?」と感じたら、
年齢のせいと決めつけず、お気軽に動物病院へご相談ください。

執筆者:朝岡紀行(獣医師)
・アンジェス動物病院 院長
・Anges Horse Wellness Care Service 主宰
犬・猫のホームドクターとしての一次診療に加え、
現在は馬の健康管理・ウェルネスケアにも取り組んでいます。
乗馬クラブや牧場における健康管理、飼養管理やケア体制への助言、馬の臨床獣医師との連携など、
現場の課題に寄り添いながら、新しいウェルネスケアの形を育んでいます。
私が目指しているのは、
「犬猫の一次診療動物病院院長 × 馬も診る総合獣医師」として、
犬・猫に加え、馬の健康を支えることを通じて、
人と動物がより健やかに共生できる社会づくりに貢献することです。
犬や猫、馬に関わる皆さまと知見を共有し、
新しい価値を共に創っていけることを楽しみにしています。
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をコンセプトに、人と馬のウェルネスを育むことを目指す取り組みです。
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