2026年4月16日

最終更新 : 2026年4月 (2020年記事を再編)
この記事は2020年に執筆したものですが、2026年現在の最新データと社会情勢に合わせて、
全面的に加筆・修正したものです。
大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
「動物病院に連れて行こうとすると、愛猫が豹変してしまう」
「通院のたびに大騒ぎで、私自身も診察を受ける前からクタクタになってしまう」
猫を愛する飼い主様にとって、こうした通院時の苦労は、
もはや「猫と暮らす上で避けて通れない宿命」のように思われているかもしれません。
多くの猫が病院を嫌い、それに伴い飼い主様も通院を躊躇する。
この状況は、現代の猫との暮らしにおける、まさに静かな社会問題と言えるでしょう。
しかし、本当にそれは「仕方のないこと」なのでしょうか。
獣医師として、この「病院=大きなストレス」という思い込みを、
少しでも解きほぐしたいと強く願っています。
飼い主と医療者の「共通の願い」
猫を病院へ連れて行くことへの負担感は、実は猫自身のストレス以上に、
飼い主様側の大きな心理的ハードルとなっているケースが非常に多いのです。
愛猫の怯える姿を見るのは胸が痛みますし、
暴れる猫をキャリーに入れるという行為そのものが、飼い主様を疲弊させます。
ですが、どうか忘れないでください。
猫を何とかして病院に連れて行きたいと願う飼い主様と、
その猫を診察し、健康を守りたいと願う私たち獣医師や病院スタッフの「想い」は、
全く同じ方向を向いています。
「何とかして、通院のストレスを減らしてあげたい」。
この共通の願いを叶えるための鍵こそが、「猫のトレーニング」なのです。
「しつけ」ではなく「学習」としてのトレーニング
猫にトレーニングなんてできるの?と疑問に思われるかもしれません。
しかし、トレーニングとは「しつけ」というより、むしろ「学習」と捉えてみてください。
猫は非常に賢い動物です。
動物病院が「怖い場所」ではなく、自分の意図を理解し、
あるいは「ここに来ると良いことがある」といった経験を積み重ねることで、
状況を学習していくことが可能なのです。
犬のパピークラスがあるように、
猫にも病院やキャリーバッグに慣れるための「猫トレ(猫のトレーニング)」が必要です。
(当院では、子猫ちゃん向けに「こねこ塾」を開催しています)
「今、平気だから」という落とし穴
猫との暮らしにおいて、
特に子猫を迎えたばかりの飼い主様にお伝えしたい現実があります。
多くの子猫は、最初から病院を嫌がることはありません。
スムーズにキャリーに入り、診察台でも大人しくしています。
そのため、飼い主様は「うちの子は病院が平気なタイプだ」と安心してしまいがちです。
しかし、この「平気」が一生続くとは限りません。
多くの猫は、成長と共に警戒心が強まり、
ある日突然、キャリーバッグへ入ることを拒否するようになります。
この変化を経験したことのない子猫の飼い主様と、
数多くの成猫を診てきた私たち獣医師の間には、
この「未来のハードル」に関する認識に大きなギャップがあるのです。
だからこそ、何の問題もない「今」だからこそ、
将来の通院をスムーズにするための予防に取り組んでおく必要があるのです。
治療よりも「予防」の価値を
病気を治すのが私たちの仕事であるならば、
病気にならないように環境を整え、病院を嫌いにならないように準備するのが、
飼い主様にしかできない「予防」です。
トレーニングのゴールは、苦手を克服することではありません。
「苦手にさせない」こと。
これに勝る予防はありません。
もちろん、すでに病院が大嫌いになってしまった成猫であっても、
工夫次第でストレスを軽減させることは可能です。
しかし、もし今、子猫と暮らしているのなら、
ぜひ今のうちに「病院は特別な場所ではない」ということを教えてあげてください。
それは、将来愛猫が病気になったとき、飼い主様の心と時間を大きく救うことにつながります。
「Well-being」な通院を目指して
通院ストレスをゼロにすることは、簡単ではありません。
しかし、少なくとも
「飼い主も猫も、病院へ行くのが苦痛でたまらない」という状況を解消することは可能です。
キャリーバッグの選び方、環境の作り方、そして私たち医療スタッフとの連携。
これらを一つひとつ見直すことで、
病院は「愛猫の健康を守るための、安心できる場所」へと変わっていきます。
愛猫が将来、もっと高齢になったとき、心穏やかに通院できるかどうか。
その鍵は、今日という日の小さなトレーニングが握っています。
まずは「病院へ行く練習」という新しい視点を、日々の生活の中に取り入れてみませんか。
