2026年4月30日

大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
猫と過ごす毎日は、私たちに多くの癒やしを与えてくれます。
その一方で、猫を飼う以上、
人と動物の双方に関わる感染症について正しく知ることも、
飼い主の大切な役割です。
その代表的なものの一つが「猫ひっかき病」です。
猫ひっかき病とはどんな病気?
猫ひっかき病は、
「バルトネラ・ヘンセレ」という細菌に感染した猫に、
ひっかかれたり、かまれたりした傷から人にうつる人獣共通感染症です。
日本では、全国で年間およそ1万人の患者がいると推定されており、
決して珍しい病気ではありません。
特徴的なのは、猫自身にはほとんど症状が出ない点です。
元気に見える猫でも、細菌を保菌している場合があり、
飼い主が感染の可能性に気づきにくいことが、
この病気の注意点と言えます。
人に現れる主な症状
人が感染した場合、猫にひっかかれたりかまれたりしてから、
1~2週間後に症状が出ることが多いとされています。
傷の周囲に赤紫色の虫刺されのような小さな隆起ができ、
リンパ節が腫れて痛むほか、
発熱や強い倦怠感、嘔吐などを伴うこともあります。
多くの場合、6~12週ほどで自然に治りますが、
安心はできません。
感染者の1~2割では、
視力低下を引き起こす視神経網膜炎や急性脳症、
心内膜炎などの重い合併症に進行することがあります。
特に急性脳症や心内膜炎は、
重症化すると命に関わるケースもあるとされています。
ひっかかれなくても感染する?
猫ひっかき病の感染経路は、
猫にひっかかれる・かまれる
場合だけではありません。
猫の血を吸って細菌を運んだ
ノミを介して人に感染するケースや、
菌が付着した犬を介して
感染するケースも報告されています。
ノミは温暖な地域を好むため、
暖かい地方ほど猫の保菌率が高い傾向があります。
過去の研究では、
北海道や宮城県では感染猫が確認されなかった一方、
山口県では約1割、
沖縄県では約2割の猫が感染していたというデータもあります。
地域差があることも、知っておきたいポイントです。
早期診断が重症化を防ぐ
猫ひっかき病は、
早く診断できれば抗生物質によって病期を短くし、
重症化を防ぐことができるとされています。
感染の有無は血清検査で判明しますが、
診断には特殊な顕微鏡と医師の経験が必要です。
猫にひっかかれた、あるいはかまれた後に、
発熱や体調不良が続く場合は、
早めに医療機関を受診し、
「猫との接触があった」ことを必ず伝えることが大切です。
正しく知ることが、猫との安心な暮らしにつながる
猫ひっかき病は、過度に恐れる病気ではありません。
しかし、
☑「猫は無症状でも人が重症化することがある」
☑「早期対応が重要である」
という事実を知っているかどうかで、結果は大きく変わります。
正しい知識を持ち、異変に気づいたら早めに行動すること。
それが、飼い主自身と家族の健康を守り、
猫との安心で豊かな暮らしを続けるための第一歩です。
