2026年3月26日

最終更新 : 2026年3月 (2020年記事を再編)
この記事は2020年に執筆したものですが、2026年現在の最新データと社会情勢に合わせて、
全面的に加筆・修正したものです。
大切な家族の『声なきサイン』を見逃さないために。
神奈川県茅ケ崎市、アンジェス動物病院 院長 獣医師の朝岡紀行です。
小学校2年生の教科書に載っている「どうぶつ園のじゅうい」というお話。
そこから始まった、あるマンモス校での特別授業の記録です。
言葉を話さない動物たちと向き合う仕事を通じて、
私が子供たちに一番伝えたかった「大切なこと」をお話しします。
教科書の先にある「リアル」を届けるために
きっかけは、小学校2年生の国語の授業でした。
教科書に「どうぶつ園のじゅうい」という、
動物園で働く獣医師の一日を追ったお話が載っています。
その授業の一環として、「本物の獣医さんの話を聞こう」という素敵な企画が持ち上がり、
私に白羽の矢が立ちました。
私は「面白そう!」と即決でお引き受けしました。
学校の先生からは「内容は先生にお任せします」という自由な依頼。
教科書を開いてみると、そこには命と向き合う仕事の大変さや尊さが丁寧に描かれていました。
しかし、私は思いました。
教科書の内容をなぞるだけではもったいない。
動物病院の獣医師として、目の前の子供たちの心に一生残るような「リアルな体験」を届けたい。
そこで学校側に「写真やスライドを見せられる環境」をリクエストし、
1週間かけて入念な準備を始めました。
授業に込めた、たった一つの「願い」
授業を構成するにあたって、私が軸にしたのは
「動物病院のじゅういの一日」です。
病院はケガや病気を治す場所であると同時に、
ワクチンや健康診断といった「命を守るための予防」も大切な仕事であること。
一日のスケジュールを通じて、獣医療の幅広さを伝えようと考えました。
しかし、知識を伝えること以上に私がこだわったのは、その先にあるメッセージです。
「動物に優しく、自然を大切にする人になってほしい」
この願いの理由は、単なる動物愛護の精神だけではありません。
動物は言葉を話せません。
だからこそ、私たちは彼らの表情、しぐさ、視線から
「今、何を望んでいるのか」「どこが痛いのか」を懸命に汲み取ろうとします。
この「言葉では汲み取れない、他者の気持ちを想像する力」こそが、
今の社会で最も必要とされる優しさではないでしょうか。
人も動物も、一人では生きていけません。
相手を思いやり、気づいて何かをしてあげる。
それが当たり前にできる大人になってほしい。
そんな想いを込めてスライドを作りました。
「果たして小学2年生に、この深い意図が伝わるだろうか?」
そんな不安を抱えつつ、当日を迎えました。
全5クラス、150人への全力の特別授業

当日は2年生全5クラスという、今時珍しいマンモス校の規模に驚きました。
感染症対策として2回に分けての授業となりましたが、教室の熱気は想像以上でした。
特に力を入れたのが「ボディランゲージ」のお話です。
動物たちが身体全体を使ってどのように気持ちを伝えているか。
スライドに映し出される犬や猫の生き生きとした写真に、子供たちの目は釘付けでした。
質問タイムは、まさに「爆発的」な盛り上がりです。
「先生が好きな動物は何ですか?」
「手術のときは怖くないですか?」
次から次へと手が挙がり、キラキラした瞳でこちらを見つめる子供たち。
時間の許す限りすべてに答えてあげたい……
そんなもどかしさを感じるほど、充実したひとときでした。
150通のお手紙が教えてくれたこと

後日、私の元に150通ものお手紙が届きました。
一通一通丁寧に綴られた文字には、私の想像を遥かに超える「気づき」が溢れていました。
「動物病院では、皆で力を合わせて治療しているのが分かりました」
「ボディランゲージの話にびっくりしました。言葉がなくても気持ちは伝わるんですね」
「動物が病気になったとき、どうすればいいか分かりました」
可愛らしいイラストと共に添えられた言葉からは、
私が伝えたかった「チーム医療の大切さ」や「他者の気持ちを汲み取ること」が、
真っ直ぐに子供たちの心に届いていたことが分かりました。
また、担任の先生からも「子供たちが、命というものに対して
これまで以上に真剣な眼差しを持つようになりました」という感想をいただき、
私のメッセージが大人の心にも深く響いたことを確信しました。
これからの想い
初めての「子供たちへの講義」は、
私にとっても、これまでの人生で最も素晴らしい経験の一つとなりました。
動物を飼っている子も、そうでない子も。
動物が大好きな子も、少し苦手な子も。
私が獣医師として体現している「命への向き合い方」が、彼らがこれから生きていく中で、
ふとした瞬間に思い出される「優しさの種」になってくれたらと願ってやみません。
「相手の気持ちを想像し、行動できる人になる」
それは、動物に対してだけでなく、隣にいる友達や家族、そして自分自身に対しても同じです。
そんな「心のバリアフリー」を育むきっかけを、
これからも獣医師という立場から発信し続けていきたいと思っています。
