アンジェス動物病院は2003年3月にテナントで開院し、その後2009年9月に、より良い獣医療サービスを提供するために現在の場所に移転しました。
そもそも獣医師を志したのは、私が中学2年生の時に、様々な医療機関を受診した経験が原体験となっています。私は「手掌多汗症」という病気を患っています。
当時は病気という概念ではなく、“体質だから”、 “気にし過ぎ”という認識が一般的だったと思います。近医だけでなく、有名な大学病院の教授診察も幾度となく受けてきましたが、症状も私が抱える不安も消えることはありませんでした。
そればかりか、研修医たちに囲まれてまるで責められているような感覚におちいったりしたものです。
ところがそんな中、一人の鍼灸師の先生と出会いました。開口一番にかけられた言葉が、「あなたの病気は人には分かり辛いから、理解されずに独りでずっと辛かったろう」でした。この一言で救われた思いがしました。
このことから、『病を診るのではなく、その人自身を診ること』。その根底に、『医療の本質は相手の心に寄り添うことである』ということに気付かされました。
そしてこの体験から医療に興味を持ち、動物好きだったことから獣医師を志しました。現在も私が追求し続けている医療の原型は、ここにあると思います。
開業して間もなく鍼灸や漢方、メディカルアロマテラピー、ホモトキシコロジーなどの代替療法・伝統医療を学ぶ機会を得ました。私がそれらの医療を行う際に、今も大切にしていることがあります。それは、「代替療法に傾倒するあまりに、現代医療からペットを遠ざけてはならない」という点です。そして、現代医療と代替医療を上手に組み合わせて、ペットにとってより負担の少ない治療である“統合医療”を実践していくことが、私の大きなテーマの一つになりました。
また、大きな転機になったことがもう一つあります。アメリカの一次診療(かかりつけ医)の動物病院のあり方を学ぶ機会を得たことです。それは、「ペットを病気にさせないために、飼い主ご家族に適切なタイミングで最適な情報を伝え、実行していただく」、「ペットの健康維持は獣医師だけでなく、動物病院スタッフと飼い主ご家族がチームとなり一 丸となって取り組んで初めて達成される」という信条でした。『飼い主家族とペットが一緒に健やかに過ごす時間を増やすために、ペットの健康寿命を延ばすこと』。私は、これが一次診療の動物病院の役目であると確信しています。
当院は動物病院ですが、トリミングやペットホテル、保育園やトレーニングなどのサービスはとても重要であると考えています。
その理由は、「ペットの具合が悪くなってから来院するのでは、既に悪化している状態になっていることが多い」、「病気の際にペットに現れるわずかな症状は、一緒に生活をしている飼い主ご家族でも気がつきにくいものである」からです。
だからこそ、「健康な時から定期的に来院して欲しい」、「トリミングなどを利用して、少なくとも2ヵ月に1回は身体診察を受けて欲しい」というメッセージを伝えることが大切です。
例えばトリミングでは、トリマーが全身をくまなく触ることで、病気の早期発見に繋がることが多々あります。加えて、病気の早期発見・早期治療のために、年2回の定期的な健康診断を全ての犬と猫にお勧めします。
このように、家族であるペットが健康な時からご来院いただくことで、ペットが病気の時には話せない些細なことや、日常の困りごとをお聞きする機会を日頃から作ることができます。それに、ペットも普段から来院する機会が増えることで病院やスタッフに慣れ、受診時のストレス軽減になります。
また、来院頻度の増加は私たちとの関係性を深めていくことになります。そのため、いざペットが事故や病気になるなどの飼い主ご家族にとってのグリーフが生じた時には、既に強い信頼関係で結ばれていることでしょう。このことは、獣医療においてとても大切なことだと考えています。
「ペットから元気をもらいたい、癒されたい」。そんな動機から、ペットを家族として迎える方がいらっしゃいます。もちろんペットは必ずその気持ちに応えてくれるでしょう。
ですが、それでは双方の依存度が高まり、ペットは飼い主さんが居ないと不安になり心を病んでしまうこともあります。
また、ペットが病気になったり介護が必要になったりすると、ペットを中心にご家族が生活するようになり、 ゆくゆくはご家族全員が疲れ果ててしまうケースも見受けられます。
そんな時も、私たち動物病院がペットと飼い主ご家族の力になりたいと思っています。そして、事前に且つなるべく早期の段階から一 緒に対応策を考えることができたら、結果は大きく変わってくることでしょう。
当院では一家族一家族の診療時間をしっかりと確保するために、時間帯予約制を取り入れています。
予約制診療では、外来の診察は一定の件数しかお受けできません。また手術数もしかりです。
私が動物医療で実践したいことは、数多くの診察や手術に追われることではなく、『ペットはもちろん、ご家族の心にも寄り添う』ことです。
「こんなはずじゃなかった」という後悔は、飼ったその時から突如起こり得ます。そんな時に飼い主ご家族の一番傍にいて、アドバイスができればどんなに素晴らしいことでしょうか。
ペットは人間より寿命が短いため、ほとんどの場合飼い主ご家族よりも早く亡くなります。ペットが天国へ旅立つその時も含めて、後悔ではなく「この子がいてくれて本当に良かった」という感謝の気持ちが湧き上がってくるようであって欲しい。
『ペットと飼い主ご家族が心身共に健康になり、人生をより豊かにするために集う場所』が、私たちの考える動物病院です。
「一人でも多くの飼い主ご家族が問題や悩みを一人で抱え込まないように」、「ネットに溢れる不確かな情報に惑わされないように」、ペットに関わる様々な職業の方とも協力して、アンジェス動物病院 は“ペットの健康だけでなく、飼い主ご家族とペットのウェルビーイングに貢献します”。
私たちが実現したいことは、“動物病院が地域のプラットフォームとして、人々が集う場になること”です。当院では、獣医師・動物看護師・トリマーといった職業で線引きは不要だと考えてきました。
また、ドッグトレーナーやペットシッターなど、動物病院には多様な人材が集まります。その誰もが、 “ペットを大切に思う気持ち”があることに違いはありません。
様々な職業の方が同じ思いを持って集まり、お互いに協力し合えば、今までなし得なかったことも達成できるようになります。
日本をもっと、ペットに優しい社会にすることが実現可能だと考えています。私の考える獣医師とは、『ペットを通じて飼い主ご家族はもちろんのこと、ペットに関わる様々な方を笑顔にする職業』です。
多くの方々が物心共に豊かになれば、真にペットを愛することが出来るようになります。
そのために、これからもスタッフ一同力を合わせ、お互いの願望を実現していきましょう。そして、多くの方がペットと共に生活し、豊かで明るい人生を謳歌されることを願います。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
もしこのメッセージを読んで、一つでも共感して下さったなら、とても嬉しく思います。
この文章も勝手に紹介してもらっても構いません。
この手紙を読んで、「動物病院に対する見方や向き合い方が少しでも変わる」、そのような方が増えれば書いて良かったと思います。まずは、気軽に動物病院に足を運んでください。
そして、動物病院のスタッフ、もちろん獣医師に、何でも話してみてください。
今後もご縁を大切にして、関わった方が皆幸せになるよう精一杯頑張っていきますので、これからもどうぞよろしくお願いします。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。