猫ちゃんは普段どんなにおとなしくても、病院では緊張しやすく、ひどい場合にはパニックになってしまうこともあります。
当院ではなるべく猫ちゃんを怖がらせないよう、優しく丁寧に診察することを心がけています。怖がってしまう場合は、ネットやタオルを用いて猫ちゃんが怪我をしないように診察いたします。
当院の待合室には“猫ちゃん優先席”を設けております。入口から遠く、前を犬が横切らないような位置にあります。また、キャリーケースを床に置くと猫ちゃんは不安を感じますので、“キャットパーク”というキャリーケース置き場を設置しております。目線が高い位置にある方が、猫ちゃんは落ち着いてくれます。ブランケットも用意しておりますので、キャリーケースにかけて目隠しとしてお使いいただくことで、少しでも猫ちゃんの不安が軽減できればと思います。
最後に、当院の診察室と入院室は猫専用になっており、ワンちゃんと顔を合わせることが無いように配慮しております。
逃走防止と、猫ちゃんの過ごしやすさを考慮して、キャリーケースに入れてご来院ください。
頑丈かつ猫がしっかり隠れられ、無理なく猫を出しやすいものを選びましょう。お勧めは、出入り口が前後についているか、上下に分割できるタイプです。
キャリーケースの大きさは、猫が伏せをした時の足先から尾の付け根までの長さが目安です。大き過ぎても猫が安心しません。
キャリーケージが苦手、怒る子は、洗濯ネット等に入れてお連れください。
猫ちゃんは怖がりな生き物です。キャリーケースには、目隠しのために毛布などをかけてあげましょう。
車内で安全に過ごせるように、キャリーケースはシートベルトでしっかり固定をしましょう。写真のようにすると安心です。
健康に過ごす上で最も大切なことは、毎日の食事です。年齢にあった品質の良いキャットフードを中心に与えましょう。にぼしなどでミネラルを摂りすぎると尿石ができることがありますので、注意が必要です。
また、太っている猫は可愛く見えますが、肥満は万病の元と言われるように、糖尿病や脂肪肝などの病気の元になります。体重に合わせて適切な量のフードを、必ず計って与えましょう。
トイレについては、猫は広くて浅い屋根なしタイプのトイレが適切です。トイレの大きさは、猫の体長よりも大きいものを選びましょう。
猫砂は好みがありますので、気に入らない場合は異なるタイプの砂を試してみましょう。
汚れたトイレでは排泄をしたがらないので、なるべくこまめに掃除をしてください。複数の猫がいる場合、トイレの個数は「猫の飼育頭数+1個」が理想と言われています。
猫は犬と異なり、タンスの上など三次元的に行動範囲があります。ですから、猫の場合は広さだけでなく高さも考えて、安らぎと静かさを求めて退避する場所を確保してあげる必要があります。
また、外出自由にしてしまうと、交通事故や喧嘩による感染症などの健康にかかわる危険がたくさん増えてしまいます。できる限り、猫はお家の中だけで飼うことをお勧めします。小さい頃からお家の中だけであれば、外に行けないからといって猫がストレスを感じることはありません。
猫草は基本的に消化出来ないので、食べると吐きます。これは本来胃にたまった毛玉を吐くために草を食べるのですが、草自体を好んで食べる猫も多いです。必要がない時に食べても吐くだけですので、毎日食べさせる必要はありません。
観葉植物は中毒を起こすものが多いので、絶対に食べさせないようにしましょう。特にユリ科の植物は、腎不全を起こすので大変危険です。
爪とぎは猫にとって大切なことです。家具や柱で爪を研がれたくない場合は、市販の爪とぎを置いてあげましょう。猫は垂直面と水平面のどちらでも爪を研ぐ習性があります。好みを良く観察した上で、爪とぎをする場所は動かないようにしっかりと固定することがポイントです。また、爪とぎをされたくない場所には、アルミホイルを貼ると防止出来るかもしれません。
高齢になるに従って、爪とぎが上手くできないことがあります。それを放置すると爪が巻いてしまって指(肉球)に刺さってしまうこともあります。爪とぎが出来ない場合は、少なくとも月に1度は爪を切ってあげる必要があります。ご自宅で爪切りができない場合は、病院で爪切りだけでも承ります。
猫のニーズを理解して正しい飼い方が出来るように、参考にしてください。
自由に外出できる猫は、・交通事故にあう,・猫に多いさまざまなウイルス感染症,・猫同士のけんかなどのリスクが伴います。そして外猫の寿命は、わずか4~5年程度と言われています。
また、全国の自治体には数々の苦情が寄せられています。・猫の排泄物の問題,・夜間や発情期の泣き声,・庭や畑、ゴミ集積所などを荒らす,・小鳥や鯉などを襲うなど。
すなわち猫を外出させることによって、飼い主さんと猫自身が不幸になるばかりか、近隣の人たちにも迷惑をかけていることも多いのです。従って、子猫の時から室内で快適に暮らせるように環境を整え、室内飼育に適応させておくことが大切なのです。
ただし、室内飼育は刺激不足になりやすいので、・子猫の正常な行動の発達の妨げ,・過剰なグルーミング,・飼い主さんへの攻撃行動,・運動不足による肥満,と様々な問題の原因になることもあります。ですから、室内の環境を整えるだけではなく、猫とオモチャを介して遊ぶなど十分猫に時間を費やしてあげる必要があります。また、ペットが幸せに暮らせるように、飼い主さんにとって不都合でなく他人に迷惑をかけないかたちで、できるだけ自然に近い行動がとれるように工夫してあげることはとても大切です。
以下の問題は、ハンドリングの練習をすれば予防できます。
・病院で身体を触ると怒るので、診察や治療が困難,・自宅で体を触ると怒るので、異常に気付くのが遅れた,・病院で渡した薬を飲ませることができない,・自宅で点眼や点耳などができない,・歯磨きをしていないので、歯石が付いたり歯周病を起こしているなど
全部一度に行う必要はありません。必ず猫が嫌がる前に終わるようにしてください。
猫のペースに合わせて練習をすることをお勧めします。猫がリラックスしている時、ゴロゴロと甘えてきた時に優しく撫でることから始めましょう。順番は、頭部→背中→尻尾の先→顔→顎の下を参考にしてください。少しずつ時間を延ばしていくと、次第に受け入れてくれるでしょう。日頃から体中を触り健康チェックを習慣付けましょう。
※猫が尻尾をパタパタと振るような仕草を見せたら中止、または触られるのを好む部位に戻ってください。
快く受け入れさせるコツは、
・最初は猫がリラックスしている時に短時間でブラッシングをし、少しずつ時間を伸ばしていく,
・猫を無理に押さえつけるなどしてブラッシングをしない
・頭部など猫が気持ちよく受け入れる場所からブラッシングし、喜んで受け入れるようにしていく,
・ブラシを嫌がる場合は、最初は手ぐしで撫でることから始めたり、歯ブラシを使ったブラッシングなどで慣らしていくのも良いでしょう。
大切なことは、「最初に肢を触ること・爪を出す行為に慣らした後に爪を切ること」です。
①リラックスしている時に優しく撫でたりしながら肢を触る練習をする
②パッドの部分を上下から指で優しく押して、爪を出す練習を一本の指から全部できるようにする
③猫がリラックスしている時にそっと爪の先の部分だけ切ってすぐ撫でたりする
④全部一度に切れるようになることを急がず、少しずつ切れる指の数を増やす
※失敗しない爪切りのコツ
・上記の準備トレーニングを十分行ってから爪切りをする,・スイッチオフの時(寝てゴロゴロいっているようなとき)に行う,・機嫌がよい状況の間に終わること。例え一本しか切れなくてもスイッチがオン(ゴロゴロが止まる、立ち上がる)になったら爪切りはやめ、機嫌を直してから終わりにすること
①猫が気持ちよく寝ている時に歯ブラシで被毛をブラッシングし、歯ブラシによるブラッシングを好きにさせる
②その後少し歯に当て、すぐに他の好む部位を歯ブラシでブラッシングする
③少しずつ歯に当てる時間を延ばす
〈好物を用いての練習法〉
①口を触ってフードを与えるという練習繰り返し、口を触れるようにしておく,
②歯ブラシを一瞬当ててすぐにフードを与えるという練習を繰り返す,
③少しずつ歯に当てる時間を延ばす
猫の性格形成には幼いころの生活環境が大きく影響します。特に社会化期と呼ばれる時期(猫では4~7週齢)は非常に大切であると考えられます。
この時期には、様々な種類の刺激(音や臭い,触られること,家以外の場所など)に慣らすのに適した時期でもあります。社会化期を過ぎると、徐々に見知らぬものに対する警戒心も強くなり、仲間以外のものを受け入れにくくなります。
最も様々なものに慣れ易いとされる社会化期には、一日一日を大切に、子猫が安心できる環境で楽しい経験ができるように配慮しながら育てる必要があります。そして、社会化期を過ぎても同様の努力を続けることによって、安定した性格の猫に育てることができます。
子猫の教育の中で一番大切なことは、人を怖がらないように育てることです。猫が人間社会で生活していく以上、他人との接点なしに生涯を終えることはできません。また、猫は怖いという気持ちが攻撃性の引き金になる場合が多いので、人を怖がるということは人を攻撃する可能性も秘めています。来客から食事を与えてもらったり、おもちゃで遊んでもらったりなどすると、来客を楽しみにするようになります。これらの社会化トレーニングは子猫の時期だけではなく、その後も継続する事が大切です。
社会化期の子猫は周りの環境に対しても柔軟で、この時期に馴染んだものには大人になっても過剰な反応を起こしにくくなります。したがって、この時期に色々なものに慣らすことで、その後に出会う様々な環境中の刺激を受け入れ易くすることができます。
(1)大きな音
大きな音を怖がる猫は少なくありませんが、幼い時期から様々な音に慣らしておくと予防効果があります。※ただし、子猫が怖がるほどの大きな音や強い刺激は逆効果になりますので、子猫の様子をよく見ながら無理をせずに少しずつ慣らす必要があります。
(2)キャリーケース
キャリーケースでの移動が大きなストレスにならないように、キャリーケースに入れて友達の家など様々な場所に連れて行く練習をするのがよいでしょう。
猫の親子は抱いたり、抱かれたりすることはありませんし、特に見知らぬ人に抱かれたり、しつこく触られたりすることは本来猫が好むことではありません。子猫を拘束せず、怖い時には遠ざかる自由を与え、自分から近づいて来て遊んだり、好物を食べるように誘導しましょう。子猫が慣れて自分からすり寄ってくるようになれば撫でたり、抱いたりするようにするとよいでしょう。
飼い主さんが問題とする行動の多くは猫の本能から来る行動で、猫にとっては正常な行動です。さらに、しばしば飼い主さんの間違った対応が問題行動をかえって悪化させていることがあります。
人に対しての攻撃行動は、猫の問題行動の中で最も深刻です。人に対して引っ掻く、咬むなどの同じような攻撃行動がみられる場合でも、その理由は一つではありません。まず、どのタイプの攻撃行動であるのかを見極める必要があります。
<子猫や若い猫に最も多い、「遊びの攻撃行動」について>
飼い主さんの手や足に飛びかかったり、咬んだり引っ掻いたりするもので、これは人に対する攻撃行動のなかでも最も頻繁にみられるもので、普通は相手に大きな傷を負わせることはありません。しかし、一匹で過ごす時間が長く、退屈で欲求不満状態の場合、また飼い主さんが猫の攻撃に応戦したり、手足を追いかけさせるような遊びをするなど、攻撃行動を強化するような対応をしてしまっている場合などでは、問題が悪化する傾向があります。通常、年齢と共に遊びによる攻撃行動の頻度は減りますが、子猫の時期に飼い主さんを咬むことを習慣づけてしまうと、成猫になった後も飼い主さんを咬むという問題を起こし易くなる傾向があります。
子猫が遊びで咬むという問題の対処として、最初にしなければいけないことは、本能のはけ口を作ってあげることです。オモチャを使って、飼い主さんの手足以外のもので遊ばせるようにします。ただし、オモチャの与えっぱなし(出しっぱなし)は良くなく、飼い主さんが一緒に楽しく遊んであげることが大切です。オモチャを投げたり、微妙に動かしたり追いかけさせたりして、猫が疲れるくらい遊んであげてください。
遊びで人に飛びついたり咬んだりした時に、叱ったり叩いたりすると、それが刺激になり、さらに興奮して咬んでくるようになります。 以下が、適切な対応になります。・腕を組んで手を隠す,・足の動きを止める,・オモチャで矛先を変える,・別の部屋に行く
あまり遊びが激しく、飼い主さんがケガをするほどであれば、最も積極的な罰を使う必要があるかもしれません。罰を使う場合は、痛みを与えるものではなく、嫌な刺激を与える方が効果的です。具体的には霧吹きなどで顔に水をかける、ビックリするような大きな音を立てるなどの方法があります。大切なのは罰を与えるタイミングで、咬むや否や(できれば咬まれる直前に)素早く罰を与えることです。※ただし罰を与えるという方法のみでの対処は絶対に止めてください。罰は他の方法だけでは上手くいかない場合に、あくまで補助的に使ってください。
唯一即効性があり、しかも飼い主さんが楽で、猫にとってもよい方法は、気の合う猫をもう一匹飼ってあげて、猫同士で遊ばせてあげることです。 ただし猫にも相性があるので、慎重に考えて相手を選んでください。いきなり会わせると喧嘩になる可能性があるので、ケージ越しに見せて一緒に好物を与えるなど、様子を見ながら少しずつ合わせるようにしましょう。
猫の好むトイレを準備し、猫が普段過ごす場所、すなわちアプローチし易い場所に置きます。トイレには予め猫自身の排泄物の臭いを少し付けておくとよいでしょう。多くの子猫はほんの数回これを繰り返すだけで自分からトイレに向かうようになります。
猫がトイレ以外で排泄し始める原因としては、
・マーキング行動:典型的なものがスプレーで、垂直面への尿マーキングする行為
・トイレ自体の問題:頻繁にみられるものとしてトイレが汚れているなど
・古典的条件付け:膀胱炎や大腸炎などで排泄時に不快感を覚えると【不快感=トイレ】と関連付けて、トイレを使わなくなるなど。
(1) 病気でないことを確認する
下部尿路疾患・腎疾患・糖尿病・腸炎・便秘・肛門嚢炎など、身体的疾患が引き金になってトイレ以外の場所で排泄するようになる
(2) トイレ以外の場所での排泄の原因を取り除く
このような方法で改善がみられない場合には、身体的疾患が関与していないかを再度確認することも必要です。
猫は関連付けが上手な動物です。例えば、【クレート=動物病院=嫌なこと】といった具合です。普段からクレートを病院に行く時にしか使用していないと、クレートを見るだけで逃げてしまいます。そうならないためには、子猫の時期からのクレートトレーニングが有効です。
(1)普段からクレートを部屋に置く
(2)毎日あるいは時々好物を入れる(最初は近くに、慣れたら徐々にクレートの中へ)
(3)クレートの中でリラックスするようになったらドアを閉めます(最初は短く)
猫の下部尿路疾患は、下部尿路である膀胱、尿道に関係する病変により引き起こされます。その中でも多い疾患には、膀胱炎や尿路結石、尿道閉塞が挙げられます。症状は血尿や頻尿、排尿困難、排尿時の疼痛が認められます。非常に再発率が多いため注意が必要です。
猫の尿石症は、若齢の雄猫でよく認められる疾患です。尿石の種類は色々ありますが、リン酸アンモニウムマグネシウム(ストラバイト)とシュウ酸カルシウムが代表例として挙げられます。尿石の形成には尿のPHが酸性やアルカリ性に傾きすぎたり、尿中に排泄されるミネラル分の増加や水分摂取量の低下による尿濃縮が起因し、結石の基となる結晶が析出しやすくなると言われています。この尿石が膀胱を傷つけたり、尿道に詰まると症状を引き起こし、繰り返すと慢性膀胱炎や尿道狭窄を起こします。雄猫はもともと尿道が狭いので、尿石や膀胱炎による炎症性産物が詰まりやすく、完全に閉塞すると排尿が出来なくなってしまいます。これを尿道閉塞と呼びます。尿道閉塞は発見、処置が遅れると、性腎不全に陥り死んでしまうこともある恐ろしい病気です。
小さなストラバイト尿石は専用の療法食により内科的に溶解させることができますが、結石が大きかったり、またシュウ酸カルシウムの場合には溶解ができないため外科的に取り除く必要があります。
膀胱炎には結石性膀胱炎、細菌性膀胱炎などがありますが、なかでも原因不明の特発性膀胱炎が多いと言われています。原因は特定されていませんが、ストレスが大きく関わっていると言われています。
高齢猫に最も多い病気の一つが慢性腎不全です。慢性腎不全とは長い時間をかけて腎機能が徐々に低下する病気です。そのため、腎臓の働きである血液中の老廃物のろ過や水分の再吸収、電解質バランス調整や造血ホルモンの分泌などができなくなります。
慢性腎不全の原因は、加齢に伴う腎機能の低下や過去のウイルス感染、細菌感染、尿石症などに伴う腎炎や、尿道閉塞、腫瘍性、先天性、遺伝性などの腎臓病によるもの、急性腎不全からの移行など様々考えられています。
腎臓は予備能力が高いため、症状が現れた時にはすでに腎臓の機能は7割以上が失われていると言われています。そのため、慢性腎不全が発見される頃には最初の原因が分からなくなっていることが多々あります。
慢性腎不全の徴候として飼い主さんが気づく症状としては、多飲多尿や尿の色が薄い、尿の臭いが無いなどです。この他にも、元気消失や食欲低下、体重減少や毛づやの悪化、症状が進行してくると口の中に潰瘍ができたり口臭が強くなったりもします。また便秘や嘔吐、貧血、網膜剥離、最終的に腎機能が消失すると乏尿、無尿となり、尿毒症という状態に陥ります。
失われた腎機能は完全に回復することはないため、慢性腎不全は治る病気ではありません。しかし、早期に治療を開始することで進行を遅らせることができます。腎臓に負担をかけないようにタンパク質や塩分、リンなどが調整されている療法食を用いたり、老廃物を吸着して便と一緒に排出させる吸着炭やリン吸着剤、血管を拡張させ腎臓の負担を軽くするACE阻害薬などが治療として挙げられます。また、慢性腎不全は脱水状態に陥りやすいため、定期的な輸液が必要となることがあります。
猫の慢性腎不全は、完全に予防できる病気ではありません。しかし、原因因子となる病気にならないように適切なワクチン接種、ストレスのない生活環境、ライフステージにあった食事や充分な飲水、清潔なトイレを整えてあげることは可能です。慢性腎不全は血液検査(腎機能バイオマーカー)や尿検査で早期に発見できますので、定期的な健康診断が必要です。
猫の甲状腺機能亢進症は、高齢の猫によく見られる内分泌疾患です。甲状腺が腺腫性に過形成を起こしたり、腫瘍化することで甲状腺ホルモンが過剰分泌されることによって引き起こされる全身性の疾患です。主な症状は、食欲低下を伴わない体重減少や多飲多尿、多食、消化器症状や心疾患、腎不全、高血圧が併発することなどがあります。なかには怒りっぽくなったり、攻撃性が増す個体もあります。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、代謝が促進されて動物が衰弱していきます。
診断は、血液検査により甲状腺ホルモン値を測ることで行います。治療は甲状腺を外科的に切除する方法と、投薬により甲状腺ホルモンの産生を抑制する方法があります。近年では甲状腺ホルモン産生に必要となるヨードを制限し、過剰生産を抑えることを目的とした療法食が開発され、治療の選択肢が拡がっています。
猫伝染性鼻気管炎は猫ヘルペスウイルスが引き起こす病気で、主な症状は涙目、角膜炎、結膜炎、くしゃみ、咳、鼻水などです。それら分泌物の飛沫や、空気感染によって感染します。この病気は猫カゼといわれるように、猫の間では普遍的な病気で、多くの猫がウイルスを持っており、人間のヘルペスウイルス同様、一度感染すると細胞の中にとどまってしまい生涯ウイルスを保持します。免疫力があれば症状は出ませんが、体調を崩したときなどに涙目、くしゃみなどの形で症状を再発します。中には後遺症的にそのような症状が慢性的に残ってしまい、治らない子がいます。成猫ではたいてい重篤な病気ではありませんが、他の病気と混合感染することがあり、仔猫や高齢猫ではこじらせると命取りになってしまうことがあります。
一般的な3種混合ワクチンで予防できる病気ですが、ワクチン接種前に感染したものはワクチンをうっても感染が消えることはありません。ただしワクチンで抗体価が上がるので、重篤な症状を抑えてくれる可能性があります。治療は抗生剤で2次感染を抑えたり、インターフェロンで免疫力を上げたりという対症療法になります。L-リジンというアミノ酸が猫ヘルペスウイルスを減らすことがわかっており、L-リジンのサプリメントを続けて飲ませると症状が軽減することがあります。この病気を含め、猫のウイルスが人や犬などの違う種に感染することはありません。
猫カリシウイルスによる感染症で、初期症状はくしゃみ、鼻水、発熱など猫伝染性鼻気管炎によく似ています。症状が進むと舌・歯肉などの口腔粘膜や口の周囲に水疱や潰瘍を起こし、ときに急性の肺炎を起こして死亡することがあります。回復した後もウイルスを排出することがありますので、他の猫にうつさないように注意が必要です。発生した場合は感染猫を隔離し、消毒を徹底する必要があります。アルコール消毒が効かないので、塩素系の消毒薬を使用します。
一般的な3種混合ワクチンで予防できますが、完全に感染を防ぐことはできないと言われています。ワクチンが効いていると症状が軽く済みますので、ワクチン接種はした方がいいでしょう。アメリカでは死亡率の高い強毒性のカリシウイルスが報告されていますが、日本では今のところ発生はないようです。
猫パルボウイルスによる感染症で、白血球が極端に少なくなる猫にとって最も危険な急性感染症の一つです。ワクチン接種前の子猫や若い猫に発症が多く、高熱、嘔吐、食欲不振がみられ、血様下痢、急速な脱水症状により高い死亡率を示します。
一般的な3種混合ワクチンで予防できます。パルボウイルスは環境中で長期間生存するため、発生すると食器やケージ、トイレを介して感染することがあります。発生した場合は感染猫を隔離し、消毒を徹底する必要があります。アルコール消毒が効かないので、塩素系の消毒薬を使用します。
猫白血病ウイルスにより、白血病やリンパ腫などの血液のガン、貧血などを起こします。白血病とは白血球がガン化する病気で、障害を受けた部分により発熱、貧血、黄疸、腫瘍など様々な症状を起こします。潜伏期が数ヶ月~2年ほどあり、発病すると死に至ります。ウイルスの感染力は強くありませんが、感染猫は発病に至るまでの期間、唾液や涙、糞尿などにウイルスを排出するため、感染猫と生活を共にしている猫は感染する可能性があります。猫同士の喧嘩の時、唾液から咬傷で感染することもあると考えられています。このウイルスが人間や犬に感染することはありません。
感染する前なら、猫白血病ウイルス用のワクチンや、それを含む混合ワクチンで予防できます。感染しているかどうかは、猫エイズとともに血液検査で調べることができます。検査で持続的に陽性になった場合、この病気を治すことはできません。治療としては、様々な症状に合わせた対症療法をすることになります。リンパ腫が見られた場合、抗ガン剤を使用することがあります。末期では、ステロイドなどで緩和療法をすることが多いです。
猫伝染性腹膜炎ウイルスによる不治の病です。症状には腹水や胸水が貯留する滲出型(ウェットタイプ)と、神経症状や眼病変、臓器不全を起こす非滲出型(ドライタイプ)があり、有効な治療法はありません。点滴や抗生剤、ステロイド、インターフェロンなどで対症療法を行い、症状を緩和しながら延命をはかります。症状の進行は比較的ゆっくりですが、子猫などでは急性に進行することがあります。
猫伝染性腹膜炎ウイルスは猫腸コロナウイルスと同じコロナウイルスに属し、抗体検査では両者を区別できません。猫腸コロナウイルスは軽い腸炎を起こす病気で、多くの猫が猫腸コロナウイルスの抗体を持っているため、抗体検査をしても猫伝染性腹膜炎かどうか分かりにくいのです。一般的なウイルスは抗体により感染性を無くしますが、伝染性腹膜炎ウイルスは抗体により逆に活性化してしまいます。重症になると抗体価が上がるので、症状が出てからの抗体検査は伝染性腹膜炎の進行度を調べるのに役立ちます。ワクチンはないので、感染猫は隔離し、消毒を徹底します。このウイルスは強くないので、アルコールや洗剤などの一般的な消毒剤で死滅します。
トキソプラズマ原虫という微生物による感染症です。ほとんどの哺乳類、鳥類に感染する可能性があり、猫科の動物はオーシストと呼ばれる卵のようなものを糞便中に排出するため、感染源として問題になります。感染した猫は初期に1週間程度の下痢をし、そのときにオーシストを排泄しますが、その後はオーシストを排泄しなくなります。オーシストを含む便を舐めたり、感染したネズミなどを捕食しなければ感染しないため、室内飼育が増えた現在では猫の感染率が低下しています。
検査は抗体検査で行いますが、結果が陽性でもそれは過去の感染を意味していることがほとんどで、感染初期を過ぎてしまえば猫からオーシストがうつる可能性はかなり低いと言えます。人への感染で問題になるのは妊娠中に初めて感染することで、その場合流産したり、胎児の発育に障害を与えたりする可能性があります。妊婦さんが過去にトキソプラズマに感染している場合は心配ありません。人への感染は、猫の糞便のオーシスト、十分に火が通っていない感染豚肉や羊肉、それらを調理した器具などから起こります。近年ではガーデニングの土に混ざったオーシストから感染することが指摘されています。
従って、トキソプラズマに感染していない妊婦さんは、猫のトイレ掃除、生肉の調理、ガーデニングの土いじりなどを避け、予防に努める必要があります。近年では、猫からの感染よりも食肉から知らないうちに感染していることが多いようです。感染した猫がオーシストを排泄する期間は短く、抗体が陽性の猫はすでに治っていることがほとんどなので、間違っても妊婦さんがいるからといって飼い猫を捨てたりしないでください。ただし、感染してオーシストを排泄するのは子猫の時期が多いので、妊娠期間中に新たに子猫を飼うのは避けたほうがいいかもしれません。