心臓の中にある僧帽弁という弁が変性を生じてきちんと閉じないことで、血液の逆流やそれに伴う異常が起きる病気です。ACVIM(アメリカ獣医内科学会)のステージ分類では、軽症のものから「A」「B1」「B2」「C」「D」の5段階に分けられています。
ステージA、B1は無症状なことがほとんどです。ステージB2は、運動時の咳や活動量の低下などの症状がみられることがあります。
ステージCは、咳、活動量の低下、呼吸困難などの症状がみられます。
C・キングチャールズスパニエル、シーズー、M・ダックス、チワワ、ヨーキー、ポメラニアン、T・プードル、マルチーズなどの小型犬に多く、中高齢での発症が多くみられます。
聴診器による聴診で、僧帽弁閉鎖不全症を疑う心雑音を聞き取ることで、概ね存在診断はできます。ただ、治療を選択する上ではレントゲン検査、心電図検査、心エコー検査、血圧測定、血液検査などを行う必要があります。
心臓拡大による症状の改善を治療目的にする場合は、ピモベンダン、ACE阻害薬、アムロジピン、利尿薬などを使用します。また、咳に関して気管支が問題である場合は、気管支拡張薬などを併用する場合もあります。
肺水腫とは、肺の組織に水が貯まる状態です。それにより、肺の働きである空気と血液間での酸素と二酸化炭素の交換がうまく行われなくなります。
肺水腫の原因はいくつかありますが、心不全により血液の流れが悪くなることでも起こることが知られています。
ACVIMのステージ分類では、肺水腫を起こした僧帽弁閉鎖不全症は、ステージCもしくはステージDに分類されます。
肺機能が妨げられるため、呼吸不全が起こります。軽度では、呼吸数増加、重症になるにつれて呼吸困難、意識レベルの低下が起こり、死に至ることもあります。
肺水腫の診断は、レントゲン検査や聴診などを用います。近年、肺エコーというエコー検査法も行われています。
肺の中に溜まった水を抜くため、強心薬、血管拡張薬、利尿薬などを用います。また、体内への酸素の取り込みを補うために、酸素室で管理する事が多いです。状況によっては、一時的に人工呼吸器を使用して命を守る方法も実施されることがあります。
大型犬に多い心臓病で、心臓の収縮力が弱くなり心臓の中が拡張して心不全に至る病気です。心臓の拡張により、不整脈を伴うことも多いです。また、心不全の結果、肺水腫や運動不耐性などが引き起こされます。
心不全症状として、元気低下・食欲低下・呼吸が速くなる・呼吸困難が見られたり、不整脈の症状として、失神・虚脱・突然死がみられることがあります。
大型犬に多く、ドーベルマンやボクサーが好発犬種です。
心エコー検査によって、心筋の収縮の低下を確認するのが⼀般的です。また不整脈治療の必要性を判断するため、心電図検査を行うことがあります。
強心薬や血管拡張薬、抗不整脈薬を使用します。肺水腫に至っている症例では、利尿薬を使用することもあります。
様々な原因により、肺動脈血圧が上昇した結果起こる病気です。この原因には、心不全、慢性呼吸器疾患(喘息など)、フィラリア感染症などがあります。肺高血圧のメカニズムとしては、肺血管の収縮、肺血管壁の肥厚、肺血管の閉塞(血栓症、フィラリアなど)が考えられます。
また、肺高血圧症では右側の心臓の血流が悪くなり、右心不全を起こすこともあります。
肺高血圧によっては、呼吸が速くなる・元気低下・食欲低下・失神などが見られます。右心不全では、胸水・腹水が貯まることがあり、それにより呼吸が早い・呼吸困難・お腹が張るなどの症状がみられます。
発性肺線維症(ウエスティに多い)などの慢性の呼吸器疾患に続発することがあります。
ヒト医療で確定診断に用いられている「心臓カテーテル検査」は、獣医療ではほとんど行われていません。臨床経過、身体所見、心臓エコー検査などの情報を持って総合的に評価をしていきます。
また、肺高血圧症の原因を調べる目的で、特殊血液検査やCT検査を行うこともあります。
心不全などの原因がある場合は、そちらの治療を積極的に行います。原因となるものがない場合や原因への治療と並行して行う治療には、肺血管拡張薬の使用があります。肺血管を広げることで、悪くなっている肺血流を改善する効果があります。
心臓の周りには心膜という膜があり、通常これと心臓の間には少量の心嚢水という液体が貯留しています。心タンポナーデは、何らかの理由でこの心嚢水が過剰に溜まり、心臓を圧迫し心臓への血流を妨げてしまう状態をいいます。
心タンポナーデは心不全が起こり、その症状として、元気低下・食欲低下・呼吸が速くなる・虚脱が見られることがあります。また、胸水・腹水が貯まることもあります。
心タンポナーデの原因の70%は、心臓腫瘍や心膜の腫瘍からの出血であるといわれています。
エコー検査で、心嚢水の貯留とそれにより心臓が押されている様子を持って診断します。
治療で抜いた心嚢水を調べることで、心タンポナーデの原因も診断できることがあります。
心嚢水を抜く緊急対処が必要です。原因によっては、抜いた後も何度も溜まってくることがあるため、その際は心膜切除術で心膜の一部を切り取り、心嚢水を溜まらないようにする手術をすることもあります。
心臓は本来一定の規則的なリズムで拍動しています。これが不規則なリズムで拍動する状態を不整脈といいます。不整脈には大きく分けて、拍動数が増える「頻脈」と、拍動数が減る「徐脈」があります。
全ての不整脈が症状を示すわけではありません。心臓の拍動が極端に減ったり増えたりするものは、元気低下・食欲低下・失神などの症状を示すことがあります。
心電図検査によって確認します。院内で不整脈が確認できない症例に関しては、ホルター心電図という24時間つけ続けるタイプの心電図検査を実施する事もあります。
不整脈があり、それにより症状が見られている場合、抗不整脈薬による治療を行います。また不整脈の背景に心臓病がある場合、その心臓病に対しても治療を行うことが多いです。
犬糸状虫(フィラリア)が心臓に寄生することにより起こる病気です。フィラリアが寄生することで急性の心不全症状が起こる「大静脈症候群」と、フィラリアの幼虫であるミクロフィラリアが肺血管に詰まることなどで起こる「慢性犬糸状虫症」に分けられます。
大静脈症候群では、急な変化として元気低下、食欲低下、呼吸が速い、失神、胸水・腹水などが見られます。慢性糸状虫症では元気低下、食欲低下、呼吸が速い、失神などの症状が長い経過の中で観察されることが多いです。
フィラリア感染は、心エコー検査、フィラリア抗原検査などがあります。
また、大静脈症候群や慢性糸状虫症による心不全の程度の評価は、エコー検査が必要になることがあります。
強心薬や血管拡張薬、抗不整脈薬を使用します。肺水腫に至っている症例では、利尿剤を使用することもあります。
肥大型心筋症は、心臓の筋肉が過剰に分厚くなり心臓が上手く動かなくなる心臓病です。
肥大型心筋症にかかりやすい猫種は、メインクーン、ラグドール、アメリカンショートヘア、スコティッシュ・フォールドなどです。
症状は、元気・食欲の低下・開口呼吸などですが、症状が見られない場合も少なくなく、健康な猫の14%が肥大型心筋症だったとする報告もあります。
診断は、心エコー検査や血液検査などで行います。また、肥大型心筋症のタイプによっては、必要な治療が大きく変わることもありますので、心エコー検査の結果を踏まえて、最適な治療を行う必要があります。
肺水腫は、肥大型心筋症などで心臓の負担が肺にまで伝わってしまい、肺の中に水が溜まってしまう病気です。また、心臓病以外でも肺炎や感電で引き起こされる非心原性肺水腫というものもあります。
肺水腫の状況では緊急処置が必要です。原因が心臓であると確認した後は、肺の水が抜けやすくなるような薬を使い、少しでも楽になるように酸素室での治療を行います。
血栓が血管内に詰まる病気です。症状は、激しい痛みや急性の不全麻痺などになることが多いです。
動脈血栓の原因としては、心臓病が69%、甲状腺機能亢進症が9%、腫瘍が5%という報告があります。動脈血栓塞栓症を疑う場合、血液検査やレントゲン検査、心電図検査、エコー検査などで細かく調べます。
また、多くの症例が心臓病の悪化も伴うことから、心臓病の管理や肺水腫の治療も並行して行います。
正確な診断や心臓の状況を把握する上では、胸部レントゲン検査、心電図検査、心エコー検査などが必要になります。現在は、血液検査で心臓バイオマーカーを調べ、心臓の状態を評価する方法もあります。
当院では、必要な検査を組み合わせて実施する際には、動物たちへの負担が最小限になるよう適宜ご提案しています。
ACVIM(アメリカ獣医内科学会)ガイドラインを参考にし、適切なタイミングで治療を行うことで心臓病の進行を抑えることが重要です。
また、適切な管理を行い安易な薬剤の使用を控えることで、心臓と腎臓両方を守る治療を行います。
心臓病の病態を理解することは大変難しいです。それでも、「今どんな状況なのか」、「このお薬はどんな働きをするのか」をきちんと説明させていただき、飼い主様も治療内容をご理解いただいた上で、治療に積極的に参加していただくことが大切であると考えています。
受付にて、スタッフが予約時に伺った内容の確認をさせていただきます。また、呼吸状態や咳などの症状がいつ、どのような時に出るのかお伺いします。
もし、来院時やお待ちいただいている間、様子に少しでも不安があればスタッフまでお声かけください。先に酸素室でのお預かりや、優先的に処置をさせていただく場合がございます。
必ず聴診を行い、心臓に雑音がないか、不整脈がないか、呼吸音に異常がないかなどを確認します。
その他、全身を触診し、心不全の兆候や他の異常がないかも確認をしていきます。
心雑音の程度や症状に応じて、血液検査、胸部レントゲン検査、心電図検査、心エコー検査などをご提案させていただき、相談の後検査を実施します。
ただし、重症の場合は救命を優先し、最小限の説明の後、状態を安定させるために酸素吸入や一部の検査を先に実施する場合があります。
検査結果に応じて、必要な治療などをご説明させていただき、相談の中で治療方針を決めさせていただきます。
また、より詳しい検査や心臓外科手術をご希望の場合は、実施施設への紹介もさせていただきます。 肺水腫などで呼吸状態が良くない場合には、酸素室管理などを目的に入院治療をご提案させていただくこともございます。
お会計、お薬のお渡し、説明資料のお渡しは待合室または受付からさせていただきます。次回の再診のご予約も受付にて承ります。